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三者三様

[ 安部雅文のエッセイ ]

 秋の夜長、戦国の世を統一した天下人、信長・秀吉・家康が、歴史の中から抜け出してきて、現代の企業のトップとなったら、事業戦略を決定する経営会議の風景がどうなるかを、有名な「ホトトギス」の川柳で表現されている3人の長所短所から、あれこれと想像をめぐらしてみた。

 信長は「話さねば即刻頚だ君たちは」をとなるから、役員達はピリピリしながら、事前に十分準備・検討してきた戦略を手短に述べる。その戦略に情報の裏付けがなかったり、実現可能性がなかったりすれば、「お前は何を考えているのだ、この馬鹿者の」などと、信長から厳しく叱責され、退席を命じられる。私語は勿論のこと、無駄な話や議論は一切なく、役員達は信長の一挙手一投足を恐る恐るうかがいながら、緊張感漂う中で会議は進められる。そして間髪を入れず「よし、これで行く」と戦略が決定され、会議は短く効率的に終わる。しかしその戦略で事業が失敗したら、信長は自ら責任をとるだろう。

 秀吉は「話さねば言わせてみよう君たちに」となるから、にこにこしながら、「今日の会議は、懐が疑わしいというカイギにならないように」とダジャレを飛ばし、「君の考えを聞かせてよ」などと声を掛け、和気藹々としたムードを創り出す。役員達はそのムードに乗せられ、様々な情報・アイデア・意見・考えが飛び出してくる。秀吉は「そうかもしれないが、僕はこう思うな」などと言いながら、自分が最初から決めていたことが結論になるように、巧みに会議を誘導してゆく。そして頃合いを見て、「よし、これが総意だな」と戦略を決定し、会議は適当な時間に終わる。しかしその戦略で事業が失敗したら、役員達のせいにして、秀吉は自ら責任はとらないだろう。

 家康は「話さねば言うまで待とう君たちを」となるから、目を閉じて黙って椅子に座り、役員達が話し始めるまでじっと待つ。すると役員達はぼそぼそと話し始めて、段々と様々な・意見・考え・見方が出され、役員達の間で議論が自由になされ、次第に議論は盛り上がり、会議は砲弾の代わりに放談が飛び交う戦場と化してゆく。その間家康は「それで」「ほかに」という言葉しか発することなく、終始静かに議論の内容に耳を傾け聴いている。そして議論が煮詰まった時点で「よし、そうするか」と戦略は決定し、長い会議は終わる。しかしその戦略で事業が失敗したら、家康が自ら責任をどうとるかは分からないだろう。

 さて「ホトトギス」の川柳からの3者それぞれの長所短所を、現在の企業の事業戦略会議に反映させてみたが、もしも自分がこの事業戦略会議に参加していたならば、こう感じるだろう。信長は短気で厳しすぎると言われるが、ついていきたいトップである。秀吉は人たらしでセコイと言われるが、その通りで一番嫌で避けたいが、しかし商品企画の会議ならば一番のトップである。家康は慎重過ぎてシャープでないと言われるが、やっぱりそうでいらいらし不満が残るが、しかし人事考課の会議なら最高のトップである。うーん、長所は良いところ、短所は悪いところと、そんなに単純に言えるものでなく、コインの裏と表のような表裏一体のものではないのかと、そんな風に感じ思った晩秋の一夜であった。

 余談になるがスピーキング・エッセイ社は、信長の「効率」、秀吉の「誘導」、家康の「傾聴」というコミュニケーションスキル・ノウハウを紹介、提供する活動を行っている企業である。


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