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思いやりのひと

[ 神宮律子のエッセイ ]

 先日、眼の定期健診のためにある大学病院に行きました。大学病院の中でも、眼科は特にお年寄りを中心に患者が多く、その日も待合室には多くの患者で一杯でした。

 いつもの事ですから、2~3時間は診察に時間がかかるだろうと覚悟していました。眼科では、まず検査室に通されます。検査室では、視力、眼圧、角膜の写真撮影などが行なわれます。検査後に診察ですが、この検査室は待合室以上に混んでいて、看護師は目が回るほど忙しく動いていました。

 その慌しい検査室の中で待っている間に、ある看護師の対応に目が止まりました。お年寄りの患者が、杖だけを頼りに、くるくる回る丸椅子に恐る恐る腰をおろしながら検査を受けようとしていました。でも検査を担当する看護師は黙って見ているだけです。病院の検査用椅子は、確かに機能性重視でなくてはいけないとは思いますが、肘掛も背もたれもないので、足の弱いお年寄りが座るのにはかなり不安定で時間がかかります。

 その後、検査台に顎を乗せて眼の写真撮影をするのですが、どういう訳かすぐに台から顎がはずれてしまいます。その度に、看護師が、「顎を動かさないで下さい」「顎を動かすと写真が撮れませんよ」ときつい言葉で注意していました。お年寄りは思うようにならないようで「すみません」と何度も謝っていました。私達にとっては何でもない事でも、お年寄りにとっては、同じ姿勢でいる事は困難なことなのだと、その光景を見て気づかされました。

 それと同時に、看護師のきついものの言い方に、不快な気持ちになりました。ようやく検査が終わり、不安定な椅子から立つときも、また一苦労です。なかなかスムーズに立つ事はできず、危なっかしく、見ていて心配でした。でも、座る時と同じように看護師は黙って見ているだけで、その表情には「忙しいのに早くしてくれないかな」と言う気持ちが表れていました。

 最近は病院でも、患者をお客様という気持ちで対応しようと意識改革されている所が多いのですが、この大学病院はまだまだなのかなと残念な思いでした。

 しかし、その後ほっとする場面がありました。先ほどの検査ですまなさそうな顔をしていたお年寄りに対して、年配の看護師が、「なかなか同じ姿勢で顎を乗せていられないですよね。皆さんそうですよ」と優しく声をかけていました。お年寄りの顔が安心したように明るくなったのは言うまでもありません。

 そして、その看護師の患者への対応を見ていると、お年寄りが検査椅子に座るときは「ゆっくりでいいですよ」と声をかけていましたし、多忙を極める検査室の中でも笑顔で、顔見知りの患者にも時々声をかけていました。
 忙しい時は皆ピリピリしていますが、忙しい時こそちょっとした思いやりの一言があると、患者もイライラしないで待っていられるものだと感じた大学病院での出来事でした。


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