[ 大嶋友秀のエッセイ ]
私たちはロビ-で落ち合い、タクシ-を呼んでもらって花火大会の会場である町民会館のグランドへと向かった。ほとんど人が歩いていない道を車だけが突き抜けていく。道路沿いに尽きることがないように数多くの石灯籠が立っている。
「運転手さん、道端に立っている石灯籠は何か意味があるんですか?」と靖子さんが聞いた。
「特攻作戦で死んでいった人達の数だけ、灯籠をたてることになっているんですよ。全部で二千十六人の若者が命を落としたんで、その数まで建てつづけるそうですよ。今、大体、七百ぐらいは立っているそうです」と運転手さんは説明してくれた。
「やはり、知覧のひとたちは戦争体験をもっともっと知ってもらおうという使命感のようなものが強いのですか?」と靖子さん。
「・・・う-ん、そう願いたいと思いますけどね。みんながみんなそうじゃないですよ」「なるほどねえ」と靖子さん。
私たちの車も、石灯籠に迎えられるようにして、会場に着いた。赤茶けたタイル造りの町民会館は今夜は静かに明日のスピ-チコンテストを待っているようだ。グランドの方へ近づくにつれて、出店の数が増えてくる。そして、何処に隠れていたのかと思うほど、人出が多かった。まるで、京都の祇園祭りや隅田川の花火大会を連想してしまうほどだ。特に、浴衣姿の若い女性が目立った。今日一日知覧の町を歩いた印象としては、若者たちは年寄りを残して、都会へ出ていってる典型的な田舎町だった。
しかし、花火に集まってきている人達を見て、そうでもないのだと思えた。案外と町民のほとんどの人が出てきているのかもしれない。グランドの入口近くにプレハブの事務所があり、その屋根の上には町長さんやスタッフのひとたちが陣取っていた。司会者らしい人がマイクで今日の花火大会の説明をしているが、プロの司会者ではなく、町民役場の宴会担当課長のようなひとらしい。
花火は三十二回まであり、その一回ごとに、連発三十発とか、だいだいだい連発三百発とか全てに名称があり、それぞれにスポンサ-が付いている。一回ごとに、司会者が「次の提供は、○○スナック、××ス-パ-です。では、連発五十発、どうぞ-!」なんて調子で紹介していく。喉を枯らしながら、連発の「れ」のところなどドイツ語も顔負けの巻き舌発音でやってくれる。花火が夜空で炸裂している間も、適当に合いの手が入る。
「くる!くる!くる!どっかあ-ん!」
「もうひとつ!」
「よっしゃ、もう一発!」
この人の仕事は、年一回のこの花火大会の司会だけだと思えるぐらいに、気合が入っているのが、グランドに集まった人達に笑いを誘っていた。ときどき、プログラムのなかに混じっている仕掛け花火なんかは、各スポンサ-の会社名の火文字が出てきたりして、いなか町であることを思い出させてくれた。
花火の種類もいろいろで、大玉あり、超大玉あり、ひゅるひゅると円を描いて飛んでいくものあり(これは、空に立ちのぼる龍をイメ-ジしたものですと司会者から注釈がはいった)、おたまじゃくしのように空中を泳いでいくものありで、バライティに富んでいて楽しませてくれた。空に舞う花火は、すぐ近くで見ているせいか迫力があり、大玉や超大玉などが炸裂すると私の視界いっぱいに広がっていった。私は首が痛いのも忘れて、何か異次元の空間に放り出されたような錯覚を覚えた。爆発して弾け飛んでいく火の粉がオ-ロラのようになり、花火に興じるひとたちの頭上を包み込んできた。
八月十四日、終戦記念日の前日に人々が花火を見て盛り上がっている。四十年前、空に炸裂する炎は砲弾であり、砲撃を受けた戦闘機であったりしたのであろう。そして、その火を見た何人ものひとの涙が流れていた。私が花火を見て綺麗だと感動したように、特攻隊員たちは敵戦艦が燃えるのを見て、美を見いだしたかもしれない。真っ黒な夜空におたまじゃくしのように泳いでいく花火から、五十年前に亡くなった少年兵たちの魂が帰ってきているように感じたのは私だけだろうか。きっと、知覧の人達も花火の炸裂と当時のゼロ戦で死んでいった爆発とをダブらしているのだろう。
私が隅田川の花火大会や京都の花火大会よりも、知覧の夜空に舞う花火に心動かされたのは、特攻隊員たちの魂が花火のなかで隠れていて、その魂の叫び声を受け止めて私の心が共鳴したからかもしれない。
約二時間ばかりの花火大会は、瞬く間に終わり、私は山口さんたちと旅館へと足を向けた。私たちは、旅館まで歩いて帰ることにした。その時始めて気づいたのだが、道路に街灯がないのだ。行き来する車のヘッドライトの明かりを頼りに歩いていった。ほとんど真っ黒な暗がりのなかで、車のヘッドライトに照らされて浮かびでてくる石灯籠をどんどんと越して行きながら、『私たちのことを忘れないで下さい』という声が何回となく、聞こえてくるような気がした。
旅館に着いて、私は山口さんに明日のことを確認した。食事の時にスピ-チコンテストのことを話したら、是非一緒に行きたいという話になっていたからだ。
「じゃあ、明日九時ごろ出ましょうか」
と私は訊いた。
「そうですね。朝、もう一度打ち合わせましょう」と靖子さん答えた。
「朝御飯は何時からですか?」
「ええ、私たちは食事を八時からにしていますから」
「それなら、私も八時からにします。八時半でいいかなあと思ってたんで」
「では、おやすみなさい」
私たちはそれぞれの部屋に別れた。お風呂に入って、旅館のひとにビ-ルを一本たのんだ。ビ-ルを飲みながら、今日一日のことを反芻していた。初めて訪れた知覧という町、富屋旅館と鳥浜トメさん、山口さんとの出会い、花火大会のことなど、知覧という小さな町が隠し持つエネルギ-が、私の心に火を点けたようになり、気分が異様に高まり、電気を消してもなかなか寝つかれなかった。
いよいよ明日はスピ-チコンテストである。どんな人達がどんなスピ-チをしてくれるのであろうか。期待はどんどんと膨らんでいく。知覧、なんか不思議な町だなあなんて考えているうちに、まどろみのなかへ落ちていった。(つづく)




